にんにくパワーと歴史
スタミナ料理といえば、にんにくを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
古くからからにんにくには疲労回復や滋養強壮に加え、殺菌・抗菌作用もあることが知られていました。
今のようにクレーンや重機のない4000年以上も前のピラミッド建設時にも、スタミナ源として労働者たちに支給されていたり、食中毒や感染症の予防や傷などが化膿する事を防ぐためにもにんにくが使われていたそうです。
バビロンの空中庭園ではにんにくの栽培が行われていたとの記録があるそうですが、20万人以上の労働者たちに支給するだけのにんにくを、どこで誰が栽培していたのか・・・不思議ですね。
古代ローマでも遠征に出かける兵士たちへ、万里の長城建設時の中国でも労働者たちへ支給され、体力維持に欠かせない野菜として世界に広まっていったにんにく。
エジプトのパピルスをはじめ、インド・中国・ギリシャ・ローマなどで見つかった各国の古文書にもにんにくの効果効能が記録されています。
日本には、エジプトからインド・中国を経て奈良時代に伝わったと言われています。古事記や日本書紀には薬や強壮剤として使われていたと記述があり、万葉集には「にんにくをすりおろして二杯酢をかけたものに鯛をつけて食べると美味しい」と詠まれた歌があります。
また、源氏物語には「食べた後は臭いがするので人に会えない…」という恋の歌が詠まれていて、臭いのお悩みは今も昔も変わらないようです。
当時は蒜(ひる)と呼ばれていたにんにく。
にんにくと呼ばれるようになったのは室町時代になってからで、にんにくを食べることを禁じられていた僧侶達が、隠れ忍んで食べていたことから忍辱(にんじょく)という漢字が当てられ、それがにんにくへと変化していったと言われています。
その後も、豊臣秀吉は若い頃にんにくを数珠のようにつないで首から下げて、それを食べながら戦に臨んでいたとか、健康オタクと言われる徳川家康はにんにくのすりおろしを常に食べていたとか、江戸から最も遠い薩摩藩の参勤交代の長旅を支えたのはにんにく卵黄だったとか、いろんなエピソードのあるにんにくですが一般に食用として広まるのは明治以降、肉食が普及するようになってからだと言われています。
にんにくの持つ効果・効能
にんにくは、アメリカ国立ガン研究所の研究でがん予防の可能性のある食品No1に選ばれた最強の食材ですが、がん予防だけでなく様々な効果・効能があります。
にんにくの効果・効能の中心となるのは強烈な臭いの素でもあるアリシンなのですが、元々のにんにくにはアリシンは含まれていないのです。切ったり潰したりする事で組織が破壊され、にんにくの成分アリインにアリナーゼという酵素が反応してアリシンに変化するのです。スライスした途端に強い臭いが発生するのはこの為です。
アリシンはとても不安定な性質で、時間が経ったり熱を加えたりすると他の物質に変化してしまいます。その数は数十種類に及ぶと言われ、それぞれがアリシンとは異なる性質を持っているのでそれがにんにくの多様な効果・効能を生み出しているのだそうです。
にんにくの主な効能
・殺菌・抗菌・解毒作用
・体力増強・疲労回復作用
・血流促進・高血圧抑制作用
・抗酸化作用
この4つの効能によって、美容に健康にと様々な効果が得られるのです。
にんにくの選び方といろんな保存方法
収穫したにんにくを、1ヶ月ほど乾燥させたものが一般に流通しているにんにくです。乾燥しているので、カゴやネットに入れて風通しのよい冷暗所に吊るしておけば、2〜3週間は常温でも保存することができます。
ただし、暑くなってくると芽が出てきてしまいます。芽が出ると、芽に栄養が行き風味も落ちるので沢山ある場合は新聞紙に包んでから保存袋に入れ、冷蔵庫での保存がおすすめです。
美味しいにんにくの選び方
・皮の色が白いもの
・皮にハリとツヤのあるもの
・丸くて隙間のないもの
・重量感があるもの
・芽の出ていないもの
にんにくは冷凍保存もおすすめです。
1片づつ薄皮まで剥いてジップロックに入れて冷凍します。我が家ではにんにくに水分が付かないように軽くキッチンペーパーにくるんでからジップロックに入れています。
醤油漬け・オイル漬け・酢漬け・味噌漬けなど、調味料に漬けて保存する事もできます。
丸まま1片でもスライスしたりみじん切りにしても、調味料を注ぐだけなのでお手軽で簡単です。
にんにくのオイル漬けはボツリヌス菌が繁殖しやすくなるそうなので、常温保存は危険です。冷蔵庫で保存し、1〜2ヶ月くらいで使い切ってしまいましょう。
我が家のにんにくの保存法
我が家では、旬を迎える5月から6月頃にしか手に入らない新にんにくをまとめ買いして保存しています。一般的な乾燥させたにんにくと比べて、新にんにくはフレッシュで水分が多く刺激もマイルドです。
いろいろにんにくを加工したりしましたが、今は買ってきたにんにくの半分くらいはコンフィにして、残りはにんにく酒と冷凍保存にしています。どれもにんにく独特のパンチや香りはなくるのですが、我が家は接客業なのでこれくらいがちょうどいい感じです。
コンフィ
皮をむいたニンニクを瓶に入れ、オイルをひたひたに注ぎしっかりと蓋を閉めます。酸化しにくく、冷蔵庫に入れても固まらない菜種油を使っていますがお好みのオイルでOKです。
お鍋でゆっくり加熱しても出来るのですが、にんにくの旨みや香り成分を抽出するには60~80℃で熱するのがいいそうなので、低温調理器を使って80℃で3時間調理します。
終わったら急冷して冷蔵庫で保存。オイルにもよりますが、使う時に雑菌が入らないようにすれば1年ほど持ちます。
ホクホクでスプーンで簡単にペースト状になるので、パンに塗ってガーリックトーストにしたり、パスタやちょっとコクが足りない時のちょい足しにとても重宝します。ペースト状にしておくと市販のにんにくチューブの様に使えます。
コンフィとはフランス料理の伝統的な調理法の一つで、食材をオイルや砂糖漬けにして弱火でじっくり火を入れ保存性を高める調理方法です。
にんにく酒
皮をむいたにんにくと、にんにくの重さの10%のお塩、にんにくの重さの倍量のお酒を瓶に入れ、日の当たらない室内で時々蓋をゆるめてガス抜きをしながら、2週間ほど熟成させます。
唐揚げや炒め物や、軽くにんにくの風味が欲しい時にいい仕事をしてくれます。
にんにく自体も刻んで使えますし、減ってくればお酒とお塩を継ぎ足すこともできます。
にんにくの成分によって漬け汁が緑色に変色することがあるそうですが、品質に問題はないそうです。
そして、残ったにんにくは1片ずつ薄皮をむいて冷凍します。スライスやみじん切りにして冷凍すると使う時は便利ですが、劣化するのも早いので丸まま冷凍しています。若干風味は落ちますが、半年〜1年くらいもちます。
世界に伝わるにんにくの魔除け術
にんにくは昔から食べたりや薬草として使われるだけではなく、悪い病気や悪魔が忌み嫌うものとして魔除けや厄除けの効果があると信じられていました。
にんにくで魔除けと言えばドラキュラが思い浮かびませんか?ヨーロッパではにんにくの強い臭いがドラキュラから身を守ってくれると言われていて、部屋のドアににんにくを吊るしておいたり、寝る前ににんにくで作った首飾りを身につけたりしたそうです。
その他にも、メキシコではしつこい男性に嫌われたい時にするおまじないににんにくを使ったり、死者が蘇らない様ににんにくを口に含ませて埋葬する国もあったりと、世界中でいろんな言い伝えや風習が残っていて面白いなぁと思います。
日本では、古事記に日本武尊(やまとたけるのみこと)が山神の化けた白鹿に襲われた時ににんにくを投げて追い払ったという記述があります。
また、青森県弘前市にある鬼神社(きじんじゃ)にはその昔、鬼が一晩で用水路を作って干ばつから村を救ったという言い伝えがあり、今でもそのお礼に毎年5月の収穫期には鬼が好きだったにんにくを奉納するお祭りがあります。
そしてもう一つ、茨城県つくば市の一ノ矢八坂神社でもにんにく祭りがあります。
江戸時代の天明の大飢饉で疫病が流行した時、当時の領主が神社にあったにんにくで多くの命を救った事からそれ以降、もともとあった祇園祭をにんにく祭りと呼ぶようになったのだとか。毎年7月のお祭りの日には、病厄難を祓い清めるようご祈祷されたにんにくが丸ごと1つ入った珍しいお守りが頒布されるそうです。
今では魔除けとしてよりも食べる方が主流で、にんにくは世界各国のさまざまな料理に使われています。
最近はマスク生活で口臭が目立ちにくくなったお陰か、にんにくの消費量が増えているそうです。にんにくに含まれているアリシンの強力な殺菌効果は細菌やウイルスから身体を守ってくれます。どんどんそのパワーを活用したいですね。